ディズニープラス最新作の前に知っておきたい「アマンダ・ノックス事件」のすべて
2007年、イタリアで起きたある殺人事件は、一人のアメリカ人留学生の人生を大きく変えました。
当時20歳のアマンダ・ノックスは、ルームメイト殺害の容疑で逮捕され、メディアによって「魔性の女」という強烈なレッテルを貼られます。
無罪確定までに8年もの歳月を要したこの事件は、ずさんな捜査、脆弱な証拠、メディアの偏向報道、そして複雑な司法制度が複雑に絡み合った結果、のちに「アマンダ・ノックス事件」（ペルージャ英国人留学生殺害事件）と呼ばれることになりました。
アマンダ本人がエグゼクティブ・プロデューサーとして参加するドラマ『アマンダ ねじれた真実』が、2025年8月20日からDisney+（ディズニープラス）のスターで独占配信されます。
ドラマをより深く楽しむため、事件の全貌をあらためて振り返ってみましょう。
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事件に関わった主要人物一覧
| 人物名 | 役割・立場 | 概要 |
|---|---|---|
| メレディス・カーチャー | 被害者 |
英国人留学生。事件当時21歳。アマンダとルームメイトで、アパートの自室で遺体となって発見された。
|
| アマンダ・ノックス | 主要容疑者、最終的に無罪 |
アメリカ人留学生。事件当時20歳。カーチャーのルームメイト。事件後すぐに逮捕され、メディアによって「魔性の女」と報じられた。
|
| ラファエル・ソレシト | 主要容疑者、最終的に無罪 |
イタリア人大学生。アマンダの当時の交際相手。アマンダとともに逮捕・起訴された。
|
| ルディ・ガデ | 殺人罪と性的暴行の罪で有罪判決を受けた人物 | コートジボワール出身。事件現場とカーチャーさんの体内からDNAが検出された。 |
| パトリック・ルムンバ | アマンダの虚偽の告発により逮捕された人物 | バーのオーナー。アマンダが警察の取り調べで犯人だと供述し、一時的に逮捕された。アリバイが成立し釈放されたが、名誉毀損の被害者となった。 |
事件の始まり：古都ペルージャで起きた悲劇
2007年11月2日、イタリア中部の古都ペルージャで、英国人留学生のメレディス・カーチャー（当時21歳）が、ルームシェアしていたアパートの自室で遺体となって発見されました。
遺体は半裸で、喉にはナイフで刺された痕があり、警察は性的な暴行を受けた後に殺害されたと判断しました。
この事件の容疑者として、カーチャーのルームメイトだったアメリカ人留学生のアマンダと、彼女の交際相手だったイタリア人大学生のソレシトの名前が浮上します。
さらに、後にコートジボワール出身のガデが、4人目の容疑者として浮上しました。
事件は、アマンダがアメリカ人であったことから、瞬く間に世界中のメディアと世論の注目を集めました。
その背景には、単なる事件の猟奇性だけでなく、メディアが作り上げた「魔性の女」というアマンダのイメージが大きく影響したのです。
迷走した捜査と「魔性の女」というレッテル
事件発生直後から、警察の捜査には多くの問題があったと指摘されています。
アマンダとソレシトはすぐに逮捕されましたが、初期段階での警察の強引な取り調べが、その後の裁判をさらに複雑なものにしました。
アマンダは法廷で、警察から「懲役30年を言い渡す」と脅され、虚偽の告発を強要されたと証言しています。
【参考】アマンダ・ノックス、名誉毀損事件で再有罪判決
この誤った告発は、後の裁判で検察側がアマンダの信頼性を攻撃する材料となりました。
一方で、メディアはこの状況を大きく利用し、アマンダを「セックス狂いの魔性の女」として大々的に報道しました。
これは、単なる事実の報道ではなく、意図的な「人格攻撃」であり、ある種の「魔女狩り」でした。
ジェンダー規範からの逸脱
アマンダのオープンな性生活や自由奔放な言動は、当時のイタリアの文化的規範から逸脱していると見なされ、非難の対象となりました。
警察の取り調べ中に流出した性交渉相手のリストは、無許可でメディアに漏洩され、彼女の私生活がまるで「殺人犯」の証拠であるかのように扱われたのです。
外見と行動への集中砲火
若く美しい女性であるアマンダは、「悪魔の殺人鬼」「セックス狂いの女」といった言葉で報じられました。
事件後にソレシトとキスをしたり、笑っていたりしたと報じられた彼女の行動は、「殺人事件現場ではあり得ない行動」と見なされ、「異常で冷酷だ」と大々的に取り上げられました。
彼女自身はこれを不安によるものと説明しています。
ジェンダー規範から逸脱した女性が、たとえ無実であっても「悪」と見なされる傾向は、この事件で顕著に示されました。
「魔性の女」「ルシフェリーナ」（ルシファーの女性形）といったあだ名は、彼女を人間ではなく、不可解で危険な「怪物」として大衆に印象付ける役割を果たしたのです。
裁判の紆余曲折と決定的証拠の「脆弱性」
この事件の裁判は、イタリアの司法制度が持つ「多段階の控訴制度」の特性を反映し、実に8年もの歳月をかけて決着しました。
その経緯は、まるでジェットコースターのようでした。
| 日付 | 裁判所/段階 | 被告人 | 判決内容 | 特記事項/理由の概要 |
|---|---|---|---|---|
| 2008年10月 | ルディ・ガデ単独審（一審） | ルディ・ガデ | 禁固30年有罪 | 殺人、性的暴行の罪。ファストトラック方式。 |
| 2009年1月 | ノックス、ソレシト公判開始 | アマンダ・ノックス、ラファエル・ソレシト | — | — |
| 2009年12月4日 | ノックス、ソレシト一審 | アマンダ・ノックス、ラファエル・ソレシト | ノックス：禁固26年有罪、ソレシト：禁固25年有罪 | 殺人、性的暴行の罪。検察は「過激なセックス・ゲーム」と主張。 |
| 2009年12月22日 | ルディ・ガデ二審 | ルディ・ガデ | 禁固16年に減刑 | — |
| 2011年10月3日 | ノックス、ソレシト控訴審 | アマンダ・ノックス、ラファエル・ソレシト | 逆転無罪 | 「証拠不十分」。DNA証拠能力に疑問符。 |
| 2013年3月26日 | イタリア最高裁（破棄院） | アマンダ・ノックス、ラファエル・ソレシト | 二審判決破棄、差し戻し命令 | — |
| 2014年1月30日 | 差し戻し審（フィレンツェ） | アマンダ・ノックス、ラファエル・ソレシト | ノックス：禁固28年6か月有罪、ソレシト：禁固25年有罪 | — |
| 2015年3月27日 | 最終最高裁（破棄院） | アマンダ・ノックス、ラファエル・ソレシト | 逆転無罪確定 | 「捜査に誤りがあった」。 |
ガデは、通常の裁判よりも迅速に手続きを進める「ファストトラック方式」を選択したことで、アマンダたちとは別の審理となりました。
この方式は、被告人が罪を認める場合に適用されることが多く、複雑な証拠調べが省略され、早期に判決が出されるのが特徴です。
彼のDNAが事件現場と被害者の体内から見つかったため、2008年10月に殺人などの罪で禁錮30年の有罪判決を受け、翌年には禁錮16年に減刑されています。
一方、アマンダとソレシトの裁判は、まさに迷走を極めました。
検察は、料理用ナイフやブラジャーの留め具から検出されたDNAを証拠として主張しましたが、弁護側はこれらのDNAが微量で、決定的証拠にはなり得ないと反論しました。
控訴審でまさかの逆転無罪となったのは、裁判所が独立機関に再鑑定を求めた結果、DNA証拠の信頼性に疑問符がついたためです。
しかし、この無罪判決も最高裁に破棄され、再び有罪判決が下されました。
最終的に、最高裁が「捜査に誤りがあった」として有罪判決を覆し、2人の無罪が確定したのです。
この裁判の全過程は、ずさんな捜査と脆弱な証拠が、いかに無実の人間を追い詰める可能性があるかを浮き彫りにしました。
特に、微量なDNAの取り扱いをめぐる法医学的な議論は、科学捜査の限界と、その証拠が法廷でどのように評価されるべきかという根本的な問題を提起しました。
無罪後も続く「社会的な処罰」
アマンダは最終的に殺人罪で無罪となりましたが、この事件が彼女の人生に与えた影響は、裁判が終わった今もなお続いています。
彼女は、無罪判決を得て自由になったにもかかわらず、社会的な汚名や継続する法的な問題、そしてプライバシーの喪失に苦しみ続けているのです。
払拭されない「悪い女」のイメージ
無罪判決後も、メディアによって植え付けられた「悪女」というイメージは彼女から離れませんでした。
世間の多くの人々が依然として彼女に何らかの疑いを持ち続け、彼女の体験記『Waiting to be Heard』へのレビューも、擁護と非難で意見が二分されています。
継続する法的問題
警察に強要されたと主張する虚偽の告発（2007年の取り調べ中に、バーのオーナーであるパトリック・ルムンバを殺人の犯人だと告発したこと）に対し、名誉毀損で有罪判決を受けました。
この判決は、長年の法廷闘争の後も彼女の「名誉」が完全に回復されたわけではないという事実を物語っています。
失われたプライバシーと家族への影響
現在、詩人で作家のクリストファー・ロビンソンと結婚し、2人の子どもの母親となったアマンダ。
しかし、彼女のプライベートが完全に守られているわけではありません。
パパラッチが子どもたちの写真を狙い、懸賞金までかけられているという話もあり、家族を守るために子どもの顔をSNSで公開しないと表明しているという言説も一部で見られます。
このように、無罪になった後も、事件が彼女の家族にまで負の影響を及ぼしている様子がうかがえます。
ルディ・ガデのその後と、未解明な事件の真相
アマンダとソレシトは最終的に無罪となりましたが、この事件の唯一の有罪判決を受けた人物が、ルディ・ガデです。
彼は、事件現場と被害者の体内からDNAが検出されたため、殺人罪と性的暴行の罪で有罪が確定しています。
しかし、ガデが単独犯であるか、それとも共犯者がいたのかについては、今も疑問が残っています。
ガデ自身は、犯行への関与を否定し
自分がトイレに行っている間に事件が起きた
と主張しました。
この供述は、彼が単独で行動したのか、それとも共犯者の存在を隠蔽しようとしたのか、真相を曖昧にしたままです。
この事件は、ガデが有罪となった一方で、共犯者がいた可能性を完全に否定できないという、未解決感を残したまま終結しました。
司法が形式的な決着をつけても、事件の「真相」が完全に解明されるとは限らないという、刑事司法制度の限界を浮き彫りにしています。
事件が残した教訓と、ドラマが描く「真実」
アマンダは、自身の経験を活かし、刑事司法改革の活動家として、積極的に発信活動を行っています。
ドキュメンタリー映画『アマンダ・ノックス』（Netflix）では自身の視点から事件を語り、メディアによる報道がいかに「現代の魔女狩り」のようであったかを示しました。
そして、2025年8月20日より配信されるディズニープラスのオリジナルドラマ『アマンダ ねじれた真実』では、アマンダ本人がエグゼクティブ・プロデューサーとして参加します。
この作品は、彼女が無罪を証明し、自由を手に入れるまでの16年間の壮絶な戦いを鮮烈に描くとされています。
彼女は本当に“悪女”だったのか？事件の裏に隠された真実とは──
このドラマは、単なる事件の再現にとどまらず、司法制度の欠陥、メディアの責任、そして世論が個人に与える影響を深く問いかける作品となるでしょう。
この夏、事件の裏側に迫る衝撃の真実を、その目で確かめてみてはいかがでしょうか。
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